特徴的なブロック注射 星状神経節ブロック

前回はペインクリニックの代表的な神経ブロックである硬膜外ブロックについてお伝えしました。様々な疾患や症状に対して有効性があるとともに、適応をしっかりと考えて目標を決めながら治療を行うことが重要となります。今回は、ペインクリニックの代表的な神経ブロックの一つである星状神経節ブロックについて説明します。他の神経ブロックとは少し毛色が違うブロックとなりますので、その特徴を中心にお伝えしたいと思います。

目次

星状神経節ブロックとは?

星状神経節ブロックは、頸部に位置する自律神経の集まりで、星状の形をしている交感神経に局所麻酔薬を注入する方法です。解剖学的には、星状神経節は頸部の交感神経の一部であり、第7頚神経節(C7)と第1胸神経節(T1)が融合して形成されます。この神経節は、顔面および上肢の交感神経支配に重要な役割を果たしています。これにより、神経の過剰な活動を抑えて、痛みや不快な症状を軽減する効果が期待できます。特に、頭部、顔面、首や上肢の痛み、自律神経失調症などの治療に用いられています。

星状神経節ブロックの効果

痛みの軽減

星状神経節ブロックは、神経の過敏な活動を抑制することで、即効性のある痛みの軽減をもたらします。ただし、星状神経節ブロック自体は痛みの神経に直接的な作用をするわけではありませんが、痛みによって過活動になる交感神経をブロックすることにより鎮痛効果が出ると考えられています。

自律神経の安定化

星状神経節ブロックは自律神経の一つである交感神経をブロックするのが大きな特徴です。この交感神経をブロックすることにより自律神経系のバランスを整え、冷えや発汗異常、血流障害などの症状を改善させる働きをします。これにより、患者さんが不調を訴える症状の軽減を図ります。

血流の改善

交感神経は血管を収縮させる自律神経です。痛みがあると交感神経が強く働くため、血管が収縮して血流が悪くなる傾向があります。星状神経節ブロックを行うことで血管の収縮を緩和させ、血流の改善を図ることができます。

星状神経節ブロックの適応疾患

頭痛(片頭痛・緊張型頭痛)

片頭痛は血管の収縮・拡張が痛みの原因となっていると言われ、緊張型頭痛は後頚部の筋緊張によるところから頭痛が出ると言われています。そのため、内服ではコントロール不十分な症例に対して星状神経節ブロックによる血流の改善、自律神経の安定化を図り鎮痛効果を得る治療を行います。1)

三叉神経痛

頭頚部の神経痛で代表的な三叉神経痛ですが、急激な痛みを引き起こすことで患者さんの生活に支障を来すことがあります。他の疾患にも関連しますが、星状神経節ブロックにより組織への血流増加を促し痛みの閾値を下げ、内服薬と併用しながら治療を行います。2)

帯状疱疹(顔面や上肢)

頭頚部の帯状疱疹は痛みだけでなく、目や耳、顔面の神経など様々な部位に悪影響を及ぼすことがあります。痛みの軽減や回復を促すために星状神経節ブロックは有効とされ、早期に介入することが望まれます。基本的な帯状疱疹の治療と並行して星状神経節ブロックの治療を行います。3)

頚椎症・頚椎ヘルニア(上肢の痛みや痺れ)

急な首や上肢への痛みとして頸椎症や頸椎ヘルニアがあります。特に頸椎ヘルニアは急激に痛みの症状が出るため、生活に強い影響を与える傾向があります。神経痛に対する内服などで効果が不十分な場合、星状神経節ブロックが有効です。4)

頚肩腕症候群(肩こり、首こり)

肩こりや首こりの症状が強い場合、整体や内服など様々な治療や施術を行うケースが多いですが、ペインクリニックでは星状神経節ブロックが有効とされています。ただし、最初から用いることは少なく、頭痛などを併発している場合などに適応となるケースが多いです。

星状神経節ブロックの手技内容

準備

星状神経節ブロックを受ける前に、患者さんの既往歴や内服薬を確認します。特に感染症や出血傾向がないか確認し、抗血小板薬や抗凝固薬を内服している方は星状神経節ブロックを行うことができないため、他の治療方法をご相談させていただきます。

ブロックの手順

当院ではエコー(超音波装置)を使用して星状神経節ブロックを行います。左側に注射する場合は左側を上にして横向きに、右側に注射する場合は右側を上にして横向きの体位で準備します。酸素飽和度を測るモニターを指に装着して待ちます。

エコーを顎の下の首の部分に当て、注射付近の血管や神経を確認した後に消毒を行います。

その後、お声をかけながら細い針のブロック針で穿刺を行います。エコーで針を確認しながら注射部位まで進めて局所麻酔を注入します。その際、針の先が気管や血管の近くを通過するため、なるべくお声を出さないようご協力をお願いします。

注射後の経過

注射後に針を抜いてから首の部分を患者さんご自身の指で5分程圧迫して止血していただきます。

その後さらに5分間は寝ている状態でモニターをつけたままで安静にします。計10分の安静後に副作用などがないことを確認して終了となります。

注射後の副作用による注意点・ホルネル徴候

反回神経麻痺・腕神経叢麻痺

注射による副作用として、局所麻酔薬が内側に流れると反回神経をブロックして嗄声という症状が起こります。嗄声とは声を出す声帯が不十分に動くため、声が枯れたような症状がでます。この場合、気管の方へ水分や食べ物が垂れ込む可能性があるため、嗄声が回復するまでは飲食を控えていただくよう説明しています。

また、注射による局所麻酔薬が外側に流れると腕神経叢をブロックして腕や手が重く感じたり痺れたりすることがあります。こちらも症状が回復するまでは両手を使うような作業は控えていただくよう説明しています。局所麻酔の効果が強く効いている時間は2-3時間です。

ホルネル徴候

もう一つ良く知られているブロック後に出現しやすい症状があります。

まぶたが下がる、目が充血する、縮瞳するといったホルネル徴候を引き起こすことがあります。交感神経は瞳孔やまぶたの筋を支配しています。そのため、交感神経である星状神経節をブロックすることにより、これらの筋の緊張が緩むためにこのような症状が起きます。

しっかりと効果が出ている徴候の一つですが、ふらつきや見えにくさの原因となることもあるため、症状が強く出ている場合は帰宅の際に注意が必要となります。

その他

血管内に薬が入ることによる局所麻酔中毒や脊柱管内に薬液が入ることによる呼吸や循環への影響など、体へ大きく影響が出る場合もまれにあります。当院では緊急用の対処ができる準備を整えています。

星状神経節ブロックのメリット

血流の改善

効果のところでもお伝えしましたが、血流の改善が星状神経節ブロックの大きな特徴です。なぜなら、内服薬ではこのような効果を出すことが難しいからです。疾患がある部位は痛みにより交感神経が優位となり血管の収縮が行われるため、血流不全の傾向になります。その部位への血流を増加させることで、筋や神経、臓器への血流を増加させて正常な状態に近づけることができます。結果として痛みの軽減や筋緊張の軽減を図ることができます。

侵襲性の低さ

交感神経を遮断するには手術で行う方法もあります。ただし、侵襲的で不可逆的となり、副反応が他の部位に強く出ることがあります。星状神経節ブロックは繰り返しブロックを行う必要がありますが、患者さんの状態に合わせて間隔を空けて対応することができるため、調整性の良さはメリットです。

治療の選択肢

ペインクリニックの外来には薬物療法や物理療法で効果が乏しい場合に受診される症例が多いです。治療の選択肢の一つとして、交感神経へのアプローチを行うこのブロックを提供できることはメリットです。

星状神経節ブロックのデメリット

一時的な効果

効果が一時的な場合があり、長期的な管理には繰り返し神経ブロックの治療をすることがあります。急性期などの治療開始時はおおよそ1-2週間ごとに星状神経節ブロックを行うことが多いです。

合併症のリスク

まれに出血や感染、神経損傷などの合併症が発生することがあります。特に出血には注意が必要です。

理由としては、注射するすぐ近くに気管という空気の通り道があるため、非常にまれではありますが、血腫による気管圧迫の可能性があります。そのため、注射後に圧迫止血を行っていただき、抗血小板薬・抗凝固薬の内服がないことが重要です。

病態や疾患による影響

効果には病態や疾患による個人差があります。急性期の疾患には反応が良い傾向がありますが、慢性期の疾患には効果が感じにくいことがあります。

当院での取り組み方(星状神経節ブロック)

星状神経節ブロックは頭部、顔面、頸部、上肢、前胸部など幅広い疾患に対して有効です。

血管系、筋・骨格系、神経系といった様々な病態に対しても適応となるため、薬物療法で効果が乏しい場合や他の神経ブロックで効果が乏しい場合に行うことが多いです。

特に帯状疱疹や顔面神経麻痺など神経系の急性期の疾患に関しては慢性痛への移行を予防する効果も示唆されており、早期に導入することが推奨されます。その場合、初診時から星状神経節ブロックを行うこともあります。

施行回数や期間に関しては、注射の間隔を1~2週間で4~5回行って治療効果を判定します。その後、症状に応じてブロック注射の間隔を調整します。急性期の症例に関してはさらに間隔を詰めて1週間に2回注射を1~2か月行うこともあります。

最近は上肢の症状に関しては、上肢の神経が集まっている腕神経叢という部分に近い所にある星状神経節をブロックすることで選択的に交感神経をブロックすることも行っています。

頚椎ヘルニアや上肢の帯状疱疹などの症例では、腕神経叢ブロックと星状神経節ブロックを一つの注射で同時に行い、より痛みの軽減と血流の改善を図り、症状の早期改善を図るよう治療しています

まとめ

今回はペインクリニックの代表的な神経ブロックの星状神経節ブロックについてお伝えしました。外来で患者さんからよくある質問を参考に内容を作りました。

有効な治療方法であるため、より患者さんに理解していただく必要があると考えています。当院のインスタグラムでもご紹介しておりますので、資料を是非ご覧ください。

患者の皆さんが痛みに関して不安を感じずに受診できるよう、今後も痛みに関する情報を提供していきます。ご質問やご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。健康な毎日をサポートするお手伝いをしていきます。

当院ペインクリニック受診方法(川崎市中原区 東急線・JR線 武蔵小杉駅徒歩3分)

予約制となっておりますので、web予約のペインクリニックから保険証・医療証等登録していただき受診していただきますようご協力をお願いします。紹介状や以前に検査した画像がある場合はご持参ください。

参考文献

1)Choi W., Chung J., Lee D., Shin O., & Kim D. (2006). Comparison of Effectiveness of Stellate Ganglion Block between   Chronic Tension Headache and Chronic Migraine Patients. Korean Journal of Anesthesiology, 51, 201-206.

2)Makharita M., Amr Y., & El-Bayoumy Y. (2012). Effect of early stellate ganglion blockade for facial pain from acute herpes zoster and incidence of postherpetic neuralgia. Pain Physician, 15(6), 467-474.

3)Kawabata K., Sago T., Oowatari T., & Shiiba S. (2021). Prolonged blockade of the cervical sympathetic nerve by stellate ganglion block accelerates therapeutic efficacy in trigeminal neuropathy. Journal of Oral Science.

4)Jin-b A. (2007). Observations on the Efficacy of Stellate Ganglion Block plus Point Injection for Treating Cervical Spondylopathy of Nerve Root Type. Shanghai Journal of Acupuncture and Moxibustion.

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