痛みに対する薬物療法について①(侵害受容性疼痛)

これまで帯状疱疹、腰痛、頭痛など様々な痛みについて説明してきましたが、治療方法としてブロック注射だけではなく、痛みに対する薬物療法の考え方も皆様と情報共有できるよう今回お話していきたいと思います。これまでのブログで痛みについての解説も述べておりますので、今回の内容と共に是非ご覧ください。

目次

痛みの種類のおさらい

痛みに対する薬物療法をお話する前に大事となってくるのは痛みの種類になります。 痛みの種類を理解することで、それぞれの鎮痛薬の特性がどのように効くかイメージしやすくなると思いますのでお付き合いください。

痛みの種類は大きく分けて、侵害受容性疼痛神経障害性疼痛痛覚変調性疼痛の3種類に分かれます。これらの種類が単独ではなく重なる部分の痛みもありますので、痛みの原因や特徴を問診や診察で判断しながら痛みの種類の判断をしていきます。

侵害受容性疼痛は物にぶつけた、火傷、捻挫などよくある痛みの種類です。喉の痛みなどもこれらに分類されます。特徴としては炎症物質というものが体の反応で出る事によって痛みの神経が刺激され脳へ伝達されます。そのためこの炎症物質というのを抑えれば痛みの程度を落ち着かせることができるというのが侵害受容性疼痛に対する薬物療法の考え方になります。

 一方、神経障害性疼痛は皮膚の表面や筋・骨格、内臓にいたるまで様々な神経の末端から脊髄を介して脳へ神経が伝わる途中に異常や傷害が起こることにより、脳への痛みの信号が異常に強くなるという原因が多いです。そのため脳への異常信号を発している神経が落ち着くような働きをする薬物療法が有効と考えられます。

最後に痛覚変調性疼痛ですが、痛みを伝える神経が、慢性的な刺激や心理的な要因・社会的な要因によって、痛みをより強く感じてしまうよう変化したまま元の働きに戻らない状態になっているのが原因と言われております。慢性的な刺激の中には侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛のような刺激も含まれておりますので、痛覚変調性疼痛の場合は他の痛みの種類と重なる部分が多い傾向にあります。そのため炎症物質を抑えるような薬物療法や神経の異常興奮を抑えるような薬物療法どちらも考慮しながら治療をしていきます。

今回のブログは侵害受容性疼痛について話していきます

侵害受容性疼痛の薬物療法について

先ほどの中にも出てきましたが、侵害受容性疼痛は物にぶつけた、火傷、捻挫など一般的な痛みと考えてもらってよいと思います。

主に原因となる部位としては皮膚、筋肉、骨や関節、口から腸管などの粘膜、肺や胃などの内臓など幅広く関与しています。 侵害受容性疼痛は刺激を与えると痛みの増強があるのが特徴だと考えております。

例えば、捻挫している人は歩くと痛みが出ます。火傷しているところを触ると痛みが増強します。といったイメージです。

それとは反対に侵害受容性疼痛は安静にすると痛みが落ち着く傾向もあります。先ほどの例を考えると捻挫ですと固定をして重力などの負担がかからないようにすると痛みは強く出ません。また火傷もガーゼで保護して新たな刺激が加わらないようにすると少なくとも痛みが増強することはなく徐々に落ち着いていくことが多いと思います。

このように痛みの原因を理解しておくと、痛みに対してどのように向き合っていくか考える事が出来るようになります。その状況で薬物療法を追加していきます。

アセトアミノフェン

侵害受容性疼痛によく用いられる鎮痛薬としては、アセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)になります。 アセトアミノフェンは作用機序が明確にわかっているわけではありませんが、炎症物質を抑える、また脳の方へも痛みの刺激を和らげてくれる作用があると言われております。 アセトアミノフェンの用量が少ないと効果が弱く出てしまうため、外来などでもこの薬は効かないと感想をいただくこともあります。それは一般的に処方されている用量が少なめであることが多いため、しっかりとアセトアミノフェンの用量を内服する必要があります

また、比較的副作用も少ないため安全に使える薬剤とも言われているので、アセトアミノフェンで痛み止めのベースを作っておきながら、他の薬で急に出てくるような痛みや増強した場合への対応といった形で併用して内服することも多いです。

非ステロイド系抗炎症薬( NSAIDs)

 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は侵害受容性疼痛で重要なポイントである炎症物質を抑える作用が得意です。NSAIDsの中にも色々と種類がありますが、作用発現時間や作用持続時間など少しずつ違うものがありますので、患者さんの状況などによって調整していきます。

NSAIDsの中で一番有名なのはロキソプロフェンになると思います。非常に効果を実感しやすいお薬だと思います。それはアセトアミノフェンなどに比べると内服してから薬の効果が出るまでの時間が非常に早いため効いている実感を得やすいです。ただ薬が切れてくるのも早いので次の内服のタイミングまでの間に薬の切れ目が出やすいため、個人的にはアセトアミノフェンのように痛み止めのベースとしてNSAIDsを使うには不向きと考えています。

また、多くのNSAIDsは腎臓や胃などにも負担をかけやすく長期での定期内服は避けたほうがよいです痛めたときなどの急性期に2週間程度使うか、アセトアミノフェンに加えて痛みが増強時の頓用で使用するのがよいと考えています。

オピオイド鎮痛薬(弱オピオイド)

侵害受容性疼痛の大半はアセトアミノフェン、NSAIDsで対応できることが多いです。ただ痛みの程度が強い場合はオピオイド鎮痛薬という医療用麻薬が含まれている鎮痛薬を使用することがあります。

痛みの連絡をつないでいくものに受容体という連絡の窓口があります。オピオイド受容体は皮膚などの末梢から脊髄、脳といった中枢部分まで色々なところに存在するため、薬物療法により幅広く作用することが期待出来ます

実際に外来で使用されるオピオイド鎮痛薬は弱オピオイドと言われて、モルヒネ(強オピオイド)など有名な麻薬よりもオピオイド受容体に対して弱く作用します。強オピオイドが一般外来で用いられることはほぼなく、癌性疼痛以外では当院では処方することは基本的にはありません。 オピオイド鎮痛薬の内服の注意点としては、麻薬成分が含まれるため副作用である嘔気・便秘など副作用がでることがあります。このため便秘薬や吐き気止めと一緒に処方させていただくことで比較的副作用を軽減して内服することが可能となります。またアセトアミノフェンやNSAIDsと組み合わせて対応するのも副作用を減らす点ではよいと考えております。ここら辺は内服薬が多くなりすぎないように注意しながら選択していきます。

まとめ

今回は痛みの種類のおさらいと一番身近にある痛みの侵害受容性疼痛対しての薬物療法についてお話していきました。痛みの性質と薬物の特徴がわかると自分の痛みとどのように向き合って治療をしていくかイメージが付きやすくなり、適切な薬物療法に繋がりやすくなりますので、ペインクリニック外来でも同様にお話をさせてもらっています。

次回のブログで神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛についてお話をしていきたいと思いますので、是非ご覧ください。

患者の皆さんが痛みに関して不安を感じずに受診できるよう、今後も痛みに関する情報を提供していきます。ご質問やご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。健康な毎日をサポートするお手伝いをしていきます。

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