痛みに対する薬物療法について③(痛覚変調性疼痛 )

前回(侵害受容性疼痛)前々回(神経障害性疼痛)に引き続き、痛みに対する薬物療法についての最終回となります

これまでぶつけた時などによる痛みは侵害受容性疼痛に分類されて、アセトアミノフェンやNSAIDsの薬物療法が有効とされる、一方で帯状疱疹や椎間板ヘルニアなど神経に損傷や圧迫が起きて痛みや痺れがでるのは神経障害性疼痛に分類されて、抗うつ薬やSNRIなどの薬物療法が有効とされるとお話してきました

今回は痛みの分類としてもう一つ残っている痛覚変調性疼痛について少し説明をしながら薬物療法の考え方をお話していきますのでご参考にしてください

最後に痛みの薬物療法についての全体的な考え方もお伝えしていきます

目次

痛覚変調性疼痛とは

痛覚変調性疼痛は、痛みを伝える神経が、慢性的な刺激や心理・社会的な要因によって痛みをより強く感じてしまうよう変化したまま元の働きに戻らない状態になっているのが原因と言われております。例えば、繰り返しの軽い刺激や温度変化が通常よりも強い痛みとして感じられることがあります。具体的な疾患名は挙げるのが難しいのですが、線維筋痛症は痛覚変調性疼痛に分類されると言われております。

痛覚変調性疼痛はしばしば慢性化し、日常生活に影響を及ぼす可能性があります。診断は一般的な痛みの原因を排除した上で、症状の評価と患者さんの既往歴に基づいて行っていきます。痛みの原因が明確でないこともあり、侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛のような刺激も含まれているため、治療は症状の軽減を目的とする事が多く、多面的なアプローチが必要となります

薬物療法の基本原則

痛覚変調性疼痛の治療は、単一の薬剤に頼るのではなく、患者さんの症状や反応に基づいて複数の薬剤を組み合わせることが一般的となります。このアプローチは、一人ひとりの痛みの原因や程度、他の健康状態などに合わせて調整していきます

治療の目標は、痛みを減少させると同時に、患者の日常生活の質を改善することです。治療開始時には原則低用量から始め、副作用の監視をしながら徐々に用量を調整していきます

また、痛みの管理は薬物療法だけでなく、身体療法、心理療法、ライフスタイルの改善など、包括的なアプローチが推奨されております。診察時に患者さんのお話を基に治療計画を定期的に見直し、最も効果的な痛みの緩和の方法を考えていきます

痛覚変調性疼痛に対する薬物療法

抗うつ薬、抗痙攣薬、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、弱オピオイドのような神経障害性疼痛に用いられる薬剤が中心となります。前回もお話した内容にはなりますが、これらの薬剤は痛みの刺激に対して脳への痛みの伝達を抑えてくれるだけではなく、さらに脳から脊髄へ痛みを落ち着かせる信号を出す働きもしてくれます。痛覚変調性疼痛のような刺激に対して痛みの反応が過敏になっている状態には有効とされます

ただし、アセトアミノフェンやNSAIDsのような侵害受容性疼痛に対する薬物療法も効果を示すことがあり、痛みが出現する動作やタイミングがあるようであれば、アセトアミノフェンやNSAIDsも薬物療法の適応となります

痛みに対する薬物療法についての考え方

痛みに対する薬物療法について侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛に分けて考え方をお伝えしていきました。実際の診療では痛みの性質・種類を問診、診察、検査から判断していきます。どの薬物療法も痛みの種類を考察できますと適応となる薬剤の作用機序から痛みに対して効果が期待できます

しかし、内服の必要量が多くなりすぎてしまうと副作用が強くでてしまうこともありますし、同一薬物だけでは同じ部分だけに作用するため治療効果の限界が出てきます。ですので、内服量が多くならない程度に調整をしながら作用機序が違う薬を併用することにより、さらに治療効果を出すよう工夫して処方を行っていく必要があります

まとめ

痛覚変調性疼痛の治療は、診断から困難なことが多く、痛みの原因を特定できないこともあり、症状や日常生活への影響を考慮しながら多面的なアプローチが必要となります。そのため、薬物療法はその一つの選択肢であって、治療の選択と進行は、患者さんの個別の状況に応じて慎重に行っていき、痛みの軽減だけでなく、患者さんの生活の質の向上と全体的な健康の改善を目指すことが重要となります

患者さん自身やご家族が治療プロセスに積極的に参加し、開かれたコミュニケーションを保つことが、効果的な痛み管理において不可欠となります

患者の皆さんが痛みに関して不安を感じずに受診できるよう、今後も痛みに関する情報を提供していきます。ご質問やご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。健康な毎日をサポートするお手伝いをしていきます

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