睡眠・自律神経に対して頭痛と腰痛の関連は?それらの対処法は?

前回のブログでは「睡眠」「自律神経」「痛み」に関してそれぞれ双方向の関係があることを示していきました。これらを確認することによって、どれかを改善することができたら他の問題も改善する可能性があるとも言えるので、実際の診察で多い、睡眠と頭痛睡眠と腰痛についてのお話と、睡眠と自律神経と痛みについての対処法・治療についてのお話を進めていきたいと思います

目次

睡眠と頭痛

当院でも頭痛で来院される患者さんが多いですが、一定数の割合で睡眠に影響が出ている患者さんもいます。

実際に睡眠と頭痛がどのような関連があるか文献を調べてみたところ、痛みの知覚と睡眠に関与する部分が神経の解剖学的な構造で共有されている部分があるのがメカニズムとしてわかっております。そのため双方向の関係が示唆されます。

頭痛も以前のブログでお話した通り、一次性の頭痛で片頭痛や緊張型頭痛などありますが、特に片頭痛は睡眠の質が悪いと片頭痛発作が起こす可能性があり、睡眠が頭痛を和らげる治療的な役割も果たすことも報告されております。

そのため睡眠障害の治療は頭痛の治療のアプローチとしても有効である可能性が高く、日常生活への影響を考えると頭痛患者さんへの睡眠障害の有無の把握は重要となってきます。1),2),3),4),5)

睡眠と腰痛

何となく頭痛は睡眠と関係がありそうなのはわかるような気はしますが、念のため文献を参考にしてお伝えしてきました

では、ペインクリニック外来で頭痛とともに訴えが多い腰痛は睡眠と関係があるのでしょうか。 腰痛に関しても睡眠の質の改善が腰痛の改善に関連していることが示唆されております。しかし、他の文献では睡眠の質がよいと翌日の腰痛の強さが低いと関連はしているが、因果関係ではない可能性が高いとも言われています。 その他の文献では腰痛のある人は睡眠の質が悪く、睡眠の効率が低いことが示されているものもあれば、腰痛患者さんは睡眠の質が悪く、その分痛みの強さがさらに増して生活の質が低下するとも報告があります

まとめると、睡眠障害自体が直接腰痛の原因になるわけではないですが、睡眠の質が悪いと腰痛の増悪しやすく、腰痛があると睡眠の質が悪くなる可能性が高いとも言えるような内容となっております。睡眠の質が腰痛の管理において重要な役割を果たし、睡眠の質の改善が腰痛の軽減に関与すると考えております。6),7),8),9)

睡眠と自律神経に関連した痛みに対する対処法 (眠剤・鎮痛薬・ブロック注射)

前回のブログや今回の睡眠と頭痛・睡眠と腰痛に関してお伝えしていきましたが、関連がわかったところでどのように対応、治療していけば良いのかが一番気になるところであると思います。

一般的な症状が出る流れでは、先に不眠があってどこかの痛みが出てくる人よりも、腰痛や頭痛などの痛みがあって不眠になる人のほうが多いのではないかと思います。 そのため、まずは痛みの治療を優先して行っていくのが重要となり内服や神経ブロック等で対応していきますが、それだけでは痛みのコントロールが難しい場合は多々あります。その場合は、今回のタイトル通り睡眠や自律神経へアプローチすることでより痛みをコントロールしていきます

痛みに関連するような睡眠障害に対しての治療は普段の不眠治療と同じような形で行っていきます。一般名ラメルテオン(商品名:ロゼレム)のようなメラトニン受容体アゴニスト、一般名スボレキサント(商品名:ベルソムラ)、一般名レンボレキサント(商品名:デエビゴ)のようなオレキシン受容体拮抗薬、非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が有効と考えています。依存性があるベンゾジアゼピン系睡眠薬は慢性疼痛では長期の治療となるため推奨しておりません。

分類代表的な薬剤作用機序使用目的主な副作用
メラトニン
受容体作動薬
ラメルテオンメラトニン受容体に作用不眠症治療、体内時計の調整頭痛、眠気
めまい
オレキシン
受容体拮抗薬
スボレキサント
レンボレキサント
オレキシン受容体の拮抗により覚醒を抑制不眠症治療眠気、頭痛
めまい
非ベンゾジアゼピン系ゾルピデム
エスゾピクロン
GABA受容体に選択的に作用不眠症治療眠気、記憶障害奇行
ベンゾジアゼピン系ロラゼパム
テマゼパム
GABA受容体の活性化を促進不眠症治療、不安症状の緩和依存性、眠気
筋力低下

当院での診療では初期に痛みによる睡眠の質の低下や入眠困難の訴えは多く、治療目標に睡眠をとれるようになることを設定させていただくことが多いです。元々睡眠薬を内服されている方もいるためその場合はかかりつけの先生に不眠に対する薬剤の調整を依頼することもありますが、当院で処方する神経の痛みに対する内服薬としてプレガバリンや抗うつ薬や弱オピオイドなどは副作用に眠気の効果もあることからそれらをうまく利用して就寝前に内服することにより、痛みのコントロールだけでなく、睡眠の質を上げることを結果的に促すこともあります。

分類代表的な薬剤作用機序使用目的主な副作用
抗てんかん薬(神経障害性疼痛にも使用)プレガバリンカルシウムチャネルの調節を通じて神経伝達を減少神経障害性疼痛の治療眠気、めまい、体重増加
抗うつ薬アミトリプチリン、デュロキセチンセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害神経障害性疼痛の治療、うつ病眠気、口の渇き、体重増加
弱オピオイドトラマドールオピオイド受容体の部分的活性化とセロトニン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害中等度から重度の疼痛の治療吐き気、便秘、眠気

一方、自律神経へアプローチは睡眠をしっかりとれるというのが大前提にあり、前述した不眠への治療を行ったうえで、内服で自律神経へのアプローチをするのであれば抑肝散、加味逍遥散など漢方が有効であることが多く、神経ブロックで自律神経へのアプローチを行う場合は、頭頚部や上肢であれば星状神経節ブロックという交感神経をブロックする方法や、腰部から下肢に関しては腰部硬膜外ブロックが痛みと交感神経と同時にブロックできるので有効と考えております。

その他の慢性的な痛みに対する自律神経系へのアプローチ

慢性疼痛ガイドラインにおいても運動療法は推奨されていますので、内服や神経ブロックなどで痛みを少しでも緩和させていきながら、痛みがでない範囲で運動を行っていき痛みの緩和を促すセルフエクササイズを指導させていただくことがあります。これらも運動により自律神経への刺激を行うことができると考えております

運動が自律神経に及ぼす影響と痛みの管理への貢献について3つポイントを述べている文献がありましたの紹介します

1:自律神経系のバランスの改善

運動は自律神経系のバランスを改善することができます。具体的には、適度な運動によって副交感神経系の活動が促進され、交感神経系の過剰な活動が抑制される可能性があります。これにより、ストレス反応が減少し、リラックス状態が促進されます

2:抗炎症効果

運動は体内の抗炎症メカニズムを活性化させることができます。運動によって発生する抗炎症サイトカインの増加や、炎症を引き起こすサイトカインの減少が観察されることがあります。これにより、炎症に関連する痛みが軽減される可能性があります

3:抗酸化効果

運動は体内の抗酸化システムを強化することができます。運動によって抗酸化酵素の活性が高まり、酸化ストレスが軽減されることがあります。酸化ストレスは炎症や組織損傷に関連しており、その軽減は痛みの管理に役立つ可能性があります

運動による自律神経系の調整、抗炎症効果、および抗酸化効果は、痛みの軽減に寄与する可能性があると述べられています。運動プログラムを痛みの管理に組み込むことによって、痛みの軽減と全体的な健康の向上に役立つ可能性があるのではないかと考えます。10)

まとめ

今回は「睡眠」「自律神経」「痛み」に関する診療で症例が多い頭痛や腰痛と関連した文献を提示しながら、対処法・治療方法の考え方をお伝えしていきました。

痛みの原因や種類は様々ですが、痛みと睡眠の治療を行っていくことによって生活への影響の改善を図っていきます。それだけでなく、自律神経もさらに意識しながら痛みの程度や睡眠の質を考慮しながら治療することによって、より効果的に治療を進めることができるのではないかというのが今回の内容でした。

患者さんの中には睡眠や自律神経まで考えてご自身の症状が出ているのではとご質問していただくこともあり、今回のテーマを選択させていただきました。様々な文献を通して、患者さんに普段伝えていることが自分だけの解釈だけではなく、文献やエビデンスに基づいた治療を行うことができていると改めて勉強させていただく機会にもなりました。

痛みに関連するものことは検査や画像だけではわかりにくい症例もございますが、少しでも問診や診察からヒントを探して痛みの原因の可能性を見つけて治療に結び付けられるように日々診療を行っております。

患者の皆さんが痛みに関して不安を感じずに受診できるよう、今後も痛みに関する情報を提供していきます。ご質問やご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。健康な毎日をサポートするお手伝いをしていきます。

参考文献

1) E. Korabelnikova,A. Danilov,Yulia D Vorobyeva et al. Sleep Disorders and Headache: A Review of Correlation and Mutual Influence Pain and Therapy 2020;9:411-425 2) A. Vgontzas, J. Pavlović Sleep Disorders and Migraine: Review of Literature and Potential Pathophysiology Mechanisms Headache: The Journal of Head and Face Pain 2018;58:7 3) Fernández-de-Las-Peñas, C., & Olesen, J. Comorbid Sleep Disorders and Headache Disorders. Current Treatment Options in Neurology, 2020;22(11) 4) Rains, J. Sleep and Migraine: Assessment and Treatment of Comorbid Sleep Disorders. Headache: The Journal of Head and Face Pain, 2018;58. 5) Andrijauskis, D., Čiauškaitė, J., Vaitkus, A., & Pajediene, E. Primary Headaches and Sleep Disturbances: A Cause or a Consequence? Journal of oral & facial pain and headache, 2020;34:61-66 6) Rashid, A. (2018). Yonder: Sleep quality, febrile seizures, interpreters, and doulas. The British Journal of General Practice: The Journal of the Royal College of General Practitioners, 68(667), 84. 7) O’Hagan, E. T., Cashin, A., Hübscher, M., alsaadi, S. M., Gustin, S., & McAuley, J. (2023). Does poor sleep quality lead to increased low back pain the following day? Scandinavian Journal of Pain, 23, 333-340. 8) Jandrić-Kočić, M. (2019). Sleep disorder and functional disability in chronic low back pain. Zdravstvena zastita. 9) Abbasi, M., Kazemifar, A., Fatorechi, H., & Yazdi, Z. (2018). Sleep quality, quality of life and insomnia among patients with chronic low back pain compared to normal individuals. Sleep Hypn, 20, 184-189. 10) Hendrix, J., Nijs, J., Ickmans, K., Godderis, L., Ghosh, M., & Polli, A. (2020). The Interplay between Oxidative Stress, Exercise, and Pain in Health and Disease: Potential Role of Autonomic Regulation and Epigenetic Mechanisms. Antioxidants, 9(11), 1166.

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