『睡眠』・『自律神経』・『痛み』はどんな関係なの?
痛みはしばしば自律神経との関連を考慮して治療が行われることがあります。そのため神経ブロックを用いた治療では自律神経を狙ったブロック注射はありますが、西洋医学の薬物療法では直接自律神経を調整する方法は少なく、東洋医学の漢方が自律神経の調整をするのに使われることが多い傾向にあります。
ただ、普段の生活のリズムから自律神経へのアプローチが出来ないかと考えると、一番自律神経を整えるのに大事になるのは睡眠ではないかと考えております。そのため今回は『睡眠』と『自律神経』と『痛み』の関係についてお伝えしていきたいと思います。
普段のブログはペインクリニック学会、慢性疼痛のガイドラインに沿ったお話で進めていましたが、今回は睡眠や自律神経の概念などの話になりますので、文献を参考にしながら話を進めていきたいと思います。
睡眠・自律神経・痛みの三つのキーワードの関連を意識してお読みください
睡眠と自律神経の関係は?(不眠、交感神経・副交感神経)
まずは、睡眠と自律神経との関係が従来言われている通り本当に関連していて大事なのか検討していく必要があります。いくつか文献を見ながらお伝えしていきます。
自律神経をおさらいしますと、交感神経と副交感神経に大きく分かれます。交感神経は緊張やストレスなどで優位になり、副交感神経はリラックスしている状態で優位になります。
睡眠と自律神経系の健康に関しての文献があり、睡眠中の副交感神経の増加は心臓へ負担を減らし健康へ良い影響を与える可能性があると伝えています。
また、休憩時の自律神経への影響が睡眠の質と量へ影響を与えるとの報告もあり、その点から言うと睡眠の質を上げるには副交感神経が優位になる時間を多く作ることが重要となります。睡眠の質が先か、副交感神経を優位するのが先かどちらが先でも効果があるのがわかります。
結果として、睡眠の質が上がると自律神経系の機能が改善し、副交感神経の増加により健康の向上に寄与する可能性が高いとも考えられます。
睡眠が自律神経を改善することが示されましたが、睡眠が痛みとの関連だけでなく、血圧など生活習慣病への対策にも重要な要素となりそうですね。
しかし、受診される患者さんのお悩みは睡眠がしっかりととれている人は少なく、どちらかというと不眠への相談、痛みと不眠の相談が多いです。不眠になると自律神経への影響は想像できますが、実際に不眠が自律神経へどのような悪さをするのかもいくつか報告があったので見ていきます。
報告によりますと、不眠は自律神経系に影響を与えて、心血管系や呼吸系への調節をする自律神経の機能に変化をもたらす可能性があると述べられています。これらは自律神経の中でも交感神経活動の増加が心血管系への反応を増加が示す可能性があり、慢性的な不眠症が心血管系へのリスクを高める可能性があると述べられています。つまり、健康でいるためには自律神経系の機能を改善するアプローチとして不眠に対する治療の重要性が示されています。1),2)
では不眠の原因となる痛みが自律神経とどのような関係にあるのか見ていきましょう。
自律神経と痛みの関係は?
自律神経と痛みの関係は、自律神経が乱れて痛みがでるのか、痛みがでて自律神経が乱れるのか、という点からになりますが、双方向の相互作用との結論になっております。
脳の領域の研究結果によりますと、痛みの処理および調節に関与する脳の領域と、自律神経の脳の領域が大きく重複する部分があり、心拍変動を機能的に調整している部分が痛みの処理に重要な役割を果たしていることが示唆されるとも伝えられています。
ですので、どちらかが最初の原因になるというわけではございません。痛みが落ち着けば自律神経が落ち着き、最終的に睡眠の質が向上するとも言えますし、睡眠の質が向上すれば自律神経が落ち着き、最終的に痛みが軽減するとも言えます。
ただし、これらは正常に脳、神経の活動が行われている時の話になります。今までのブログでも登場してきた慢性的な疼痛は自律神経との友好な関係も崩してしまいます。
慢性疼痛を伴う疾患では自律神経系の機能障害がしばしば観察され、特に交感神経系は慢性疼痛を誘発、促進、増強させる可能性があると報告されています。
これらは交感神経に関連する物質のカテコラミンへの反応性の増加、受け口となる受容体の発現増加などが痛みの調節の機能不全を起こすメカニズムではないかとされています。3),4),5)
不眠と痛みの関係は?
ここまで、睡眠・不眠と自律神経との関係、自律神経と痛みの関係についてお話をしてきました。
外来で多くの訴えがある不眠と痛みに関してもどのような文献があるか調べてみました。不眠と痛みに関しても双方向の関係があるとの結論です。
痛みといっても侵害受容性疼痛に関連するような筋骨格に関連した痛みと、神経障害性疼痛と言われる神経痛とありますが、どちらの痛みに関しても不眠によって疼痛のリスクが高くなるとの結果がでています。また不眠によって痛みが増強する機序だけではなく、その不眠と痛みの間にうつ病や不安症状が痛みの増強への仲介をしている可能性もあると研究結果もあります。他の文献でも慢性の脊椎関連の痛みでは不安やうつ病が不眠症に関連する因子として挙げられております。
このように不眠と痛みの間には複雑な相互作用があることがわかります。そのため、痛みの管理には不眠症の治療も重要な役割を果たすことが示されています。6),7),8)
まとめ
今までのお話をまとめますと、睡眠と自律神経はどちらも痛みの管理には重要であることと示されており、さらには健康の向上にも関係しています。
自律神経と痛み、不眠と痛みの関係についてはこちらも双方向の関係があり、自律神経や不眠のどちらも対応していくのが有効な鎮痛方法へのアプローチとして常に考えておく必要があります。
予想通りの内容ではありますが、睡眠と自律神経、自律神経と痛みの関係があるというのがわかりました。この次のブログは実際の診察で多い頭痛や腰痛を睡眠とともに考えていきたいと考えています。
患者の皆さんが痛みに関して不安を感じずに受診できるよう、今後も痛みに関する情報を提供していきます。ご質問やご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。健康な毎日をサポートするお手伝いをしていきます
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参考文献
1)Michael D. Oliver. The relationship between sleep and autonomic health
Journal of American College Health 2020;68(5):550-556
2)Daniela Grimaldi et al.
Strengthening sleep–autonomic interaction via acoustic enhancement of slow oscillations
Sleep, May 2019 ;42(5); 036,
3)David Johannes Hohenschurz-Schmidt et al.
Linking Pain Sensation to the Autonomic Nervous System: The Role of the Anterior Cingulate and Periaqueductal Gray Resting-State Networks
Front. Neurosci.,2020 Volume 14
4) Doruk Arslan et al.
Interactions between the painful disorders and the autonomic nervous system.
Agri pain. 2022; 34(3): 155-165
5) Lincoln M Tracy et al.
Heart Rate Variability and Sensitivity to Experimentally Induced Pain: A Replication
Pain Practice 2018 ;18(5): 687-689
6) Tor Arnison,M. Schrooten,H. Hesser,M. Jansson-Fröjmark,J. Persson
Longitudinal, bidirectional relationships of insomnia symptoms and musculoskeletal pain across adolescence: the mediating role of mood,
PAIN 2022;163(2):287-298
7) M. Broberg, J. Karjalainen, H. Ollila
Mendelian randomization highlights insomnia as a risk factor for pain diagnoses
Sleep,2021;44, (7):025
8) Thomas Bilterys, Carolie Siffain et al.
Associates of Insomnia in People with Chronic Spinal Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis
J. Clin. Med. 2021;10(14):3175