痛みに対する薬物療法について②(神経障害性疼痛)
前回は痛みの性質を説明させていただき、そのあと代表的な痛みの種類の侵害受容性疼痛に対する薬物療法についてお話させていただきました。今回は神経障害性疼痛に対しての薬物療法についてお話していきたいと思います。痛みの性質を前回の内容をおさらいしてから是非ご覧ください
神経障害性疼痛の薬物療法について
侵害受容性疼痛は物にぶつけたなど一般的な痛みをイメージしてくださいとお話しました
一方で、神経障害性疼痛は少し特殊です。 その名の通り神経に何かダメージを負うことによって体の症状としてピリピリやビリビリといった症状が神経の通る範囲に出ることが多いです。人によっては一瞬だけ症状出る人もいれば、持続的に出る方もいます
代表的な疾患としては帯状疱疹による神経痛や腰椎椎間板ヘルニアによる神経痛などが挙げられます。痺れと痛みが合わさるような形になるのと、人によっては昼夜関係なく症状が出現するため、仕事や睡眠が難しく生活に大きな支障をきたすことがあります
侵害受容性疼痛との診察の大きな違いとしては動かして痛みが増強することは少なく、押して痛みが増強することも少ないです。 神経は電気信号で情報を伝えますが、情報を伝達する信号を守るために神経の導線の周りに髄鞘と呼ばれる保護カバーがされております。この保護カバーが壊れると神経に外からの刺激が伝わりやすくなり、通常では痛みとならないような刺激でも痛みと感じてしまうことが出現したり、突発的な急な痛みが出現したりすることがあります。また、神経の保護カバーが壊れなくても慢性的に何かに神経が圧迫されたりすると、それも痛みや痺れの原因となります
このように痛みの原因を理解しておくと、痛みに対してどのように向き合っていくか考える事が出来るようになります。その状況で薬物療法を追加していきます
抗うつ薬(代表薬剤:アミトリプチリン)
神経障害性疼痛はガイドラインが出されており、第一選択薬として三種類の作用機序の薬剤が推奨されています。そのうちの一つに抗うつ薬が挙げられます
痛みの伝達の中でも下行性疼痛抑制系と呼ばれる痛みを弱くさせるために作用するのに関与するセロトニン、ノルアドレナリンを調整することにより、痛みの閾値を高めて痛みの感覚を減少させることができます。それ以外にも様々な神経伝達物質に作用するため痛みに対してより作用することが出来ます。 名前の通り抗うつ薬ですので、元々はうつ病に対して使われていたお薬になります
先ほど出てきたセロトニンやノルアドレナリンの脳内濃度が増加して気分を改善する効果があります。ただし、抗うつ薬は副作用が多く、他の神経物質の部分にも作用してしまうことがあり口の渇きや尿閉や便秘や体重増加などが出る事があります。そのため副作用に注意しながら薬剤量の調節を行っていく必要があるのと基礎疾患などにも注意が必要となります
SNRI:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(デュロキセチン)
SNRIもうつ病に用いられる薬剤となりますが、神経障害性疼痛ガイドラインの第一選択薬となっています
作用機序としてはセロトニンとノルアドレナリンが体に多くなるように調節することにより『痛みがそこまでひどくないですよ』と脳から全身に連絡を伝えてくれる下行性疼痛抑制系に主に働きます。
伝達物質のセロトニンとノルアドレナリンに特化して作用するものになりますので、色々なところに作用してしまう抗うつ薬よりも副作用は少ない傾向となりますし、抗うつ薬より処方できる対象がより多く患者さんになります
カルシウムチャネルのα2δサブユニットリガンド(プレガバリン、ミロガバリン)
何の薬か題名だけですとわからないと思います。これは神経がいくつか架け橋を作りながら徐々に脳に近づいていきます。この途中の架け橋のところで神経情報の伝達を調節するところに題名のとおりカルシウムが関与しており、ここに働く薬剤となります
痛みが強くなると通常はカルシウムが多く出て次の神経へ興奮が多く伝わりますが、薬剤が作用することによりこのカルシウム濃度を下げて興奮を抑え結果的に痛みや痺れを抑制できるといった結果になります。ただし痛みの神経だけでなく様々な神経にも作用するので、内服の仕方を気をつけないとめまいやふらつきや眠気などが多くでますので注意が必要です
その他の薬剤(弱オピオイド、抗てんかん薬、ノイロトロピン)
侵害受容性疼痛にも出てきた弱オピオイドや、抗てんかん薬、ノイロトロピンなども神経痛の治療に用いられることがあります。ただし、これらも副作用に注意しながらになりますので少しずつ量を調整しながら対応していく必要があります。 神経障害性疼痛の原因や症状の特性によってどれを選択するか決めていきますし、薬剤を併用して治療をすることもあります
神経障害性疼痛の薬剤の特徴・注意点
抗うつ薬、SNRI、カルシウムの調整の薬はどれも痛みや痺れの神経に効果があるのはわかりましたが、その他の治療に関係しない神経にも作用してしまい様々な副作用を起こすことがあります。そのため内服し始める時にどのように調整していくかが非常に重要となります
簡単に言いますと治療効果を出そうとしてエンジンをアクセル全開で踏んでしまうと副作用もフルで出てしまう可能性があります。そうなると治したい痛みや痺れへの効果がどうかと判定する以前の問題となってしまい内服拒否の方向に進んでしまいます。 このためこれらの薬剤は体に慣らしていきながら内服量を調整していく必要があります
皆さんも運動するときにいきなり全力疾走をすると怪我を可能性が高いのがわかるので、必ずストレッチなど準備運動をしたり事前に少しトレーニングしたりして体が全力疾走に耐えられるように整えると思います
大げさかもしれませんが、神経障害性疼痛の治療薬も同じようにしっかりと体に慣らしながら副作用が出ないように注意しながら目的である痛みや痺れの症状を緩和できるよう処方していきます
まとめ
神経障害性疼痛は侵害受容性疼痛より慎重に少しずつ治療を進めていく必要があります。そのため診療の際には日常生活に影響にある症状をより細かく問診し、原因となっている神経の同定を行っていきます
原因となっている疾患も治癒に時間がかかるものも多いのと、治癒が難しい疾患もありますので、上手に症状と付き合っていくような治療の方法もご提案させていきながら診察を進めていくこともあります。 ピリピリやビリビリなどの神経痛と思われる症状や、痺れなどがある場合はペインクリニック外来へご相談ください
患者の皆さんが痛みに関して不安を感じずに受診できるよう、今後も痛みに関する情報を提供していきます。ご質問やご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。健康な毎日をサポートするお手伝いをしていきます
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