帯状疱疹の痛みの治療はどうするの?

帯状疱疹についての総論は以前にブログで紹介しておりますが、帯状疱疹関連の痛みに関してもう少し深くお話する機会を今回できればと考えております。

当院でも帯状疱疹の診断がついていない状態で皮疹・痛みで受診される方もいれば、皮膚科や内科で帯状疱疹の診断がついて適切な治療が行われているにもかかわらず痛みのコントロールが不十分でペインクリニック外来を受診される方もいます。

帯状疱疹の痛みの経過、痛みの種類の変化を理解して、それに対してどのように治療を行っていくのがよいのか、ペインクリニック学会の治療指針やインターベンション治療のガイドライン、その他の帯状疱疹の痛み文献を参考に実際の治療の考え方とともにお伝えできればと考えております。

目次

帯状疱疹の痛みとは(炎症の痛み・神経の痛み)

まずは帯状疱疹の病態について理解することが痛みのコントロールの理解につながりますので、お話していきます。

帯状疱疹は体の色々な神経節などに不活性な状態で潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化して、神経上で増殖され、さらに皮膚に到達して皮疹が出てきます。そのため皮膚に到達する前、つまり皮疹が出る前にもすでに体の中では炎症が起こっていることが多く、皮疹出現の数日前より『先行痛』と呼ばれる痛みや知覚の異常などを感じる方が多いです。

皮疹が出る前に違和感を感じるため、腹部に出る場合は内臓疾患と、肩や股関節付近の場合などは筋骨格系の疾患と疑って内科や整形外科に受診されることも多々あります。

この急性期では皮疹からの炎症が痛みと原因なります(以前にブログで説明した侵害受容性疼痛です)。発症して診断がついたら抗ウイルス薬を早期に内服して皮疹や神経の炎症が軽度であれば一般的には数週間で治癒することが多いです。ただ、この炎症が強い場合は神経に大きく傷害が生じここからも痛みが発生しはじめます(侵害受容性疼痛+神経障害性疼痛となります)。

2週間程度で皮疹による炎症が消えてくるため侵害受容性疼痛は落ち着いてきますが、まだ神経の傷害が残るのでここからの痛みが発生し続けます(神経障害性疼痛も以前のブログで説明しております)。さらに痛みの刺激が持続すると脊髄側も変化して痛みを難治化させてしまいます(可塑性変化・中枢性感作と呼ばれる慢性痛の原因の病態に移行していきます)。

痛みの種類が経過とともに変化していくのと、強く痛みが続く事が治療をより困難にさせていくのが帯状疱疹関連の痛みの治療が難しい原因であることがわかります。

帯状疱疹の治療方法についての考え方(内服薬)

では、痛みの性質を理解したところで、どのように治療を進めていくのがよいのか、考えていきます。まずは内服薬について述べていきます。

帯状疱疹の痛みは急性期慢性期に分けて考えることが重要です急性期とは先ほどの話の通りでウイルスが活動的で、発疹や水疱が特徴的に現れる時期で炎症が中心のところから神経による痛みが出てくる時期となります。発症はじまり、おおよそ2~3か月程度の期間となります。

一方、慢性期は帯状疱疹後神経痛として知られ、おおよそ発症から3か月以上たった状態で発疹が治まり、炎症が落ち着いているにも関わらず神経に関連する痛みが続く状態を指します。

帯状疱疹の痛みに対する内服治療は、急性期の中でも皮疹の状態や神経症状の有無を診察で判断しながら内服薬を選択していくことが多いです。まずは一般的に用いられる内服薬の種類、それらのエビデンス、および関連する文献を紹介します。

1. 抗ウイルス薬

抗ウイルス薬は帯状疱疹の初期段階で投与されることにより、ウイルスの増殖を抑え、症状の悪化を防ぎます。これにより、急性期の痛みの管理に役立つのと、慢性期への移行(帯状疱疹後神経痛)のリスクを減少させる可能性が示唆されています。帯状疱疹を疑うような症状があった場合は早めに受診を勧められるのはこのためとなります。

  • 使用薬剤: アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなど
  • エビデンス: 「The Lancet」に掲載されたメタ分析によると、抗ウイルス薬は帯状疱疹の急性期において痛みを軽減し、PHNの発症率を低下させる効果があることが示されています 1)

2. 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs

NSAIDsは炎症を抑え、痛みを緩和するために広く用いられています。炎症を抑えるという点で特に帯状疱疹の急性期の痛みに対して有効です。当院では発症から2週間程度を目安に処方することが多いです

  • 使用薬剤: ロキソプロフェン、イブプロフェンなど
  • エビデンス: NSAIDsは帯状疱疹の急性期の痛み管理に有効であり、炎症を減少させることができますが、慢性期の痛み(PHN)に対しては限定的な効果しかないことが多いため長期間処方することは基本的にはありません。

3. 抗てんかん薬

抗てんかん薬は神経痛の治療にも使用されます。作用としては神経細胞の異常な電気活動を調節し、痛みの伝達を抑制します。急性期の中でも炎症が落ち着いたあとに出てくる神経痛に効果を示すことが多く、また慢性期においても治療の中心的な薬剤になります

  • 使用薬剤: プレガバリン、ガバペンチンなど
  • エビデンス: 「New England Journal of Medicine」に掲載された研究では、プレガバリンが帯状疱疹後神経痛における痛みの軽減に有効であることが示されています 2)

4. 抗うつ薬

三環系抗うつ薬は、抗てんかん薬と同様に急性期の炎症が落ち着いた後の神経痛や慢性的な痛みの管理において効果が認められています。作用は神経の伝達に重要なセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、痛み信号の伝達を減少させます。

  • 使用薬剤: アミトリプチリン、ノルトリプチリンなど
  • エビデンス: 「Journal of Pain」に掲載された研究によると、アミトリプチリンは帯状疱疹後神経痛の痛みを有意に軽減する効果があります 3)

帯状疱疹の治療方法についての考え方(神経ブロック)

内服だけですべて治療と管理できれば、一番良いのですが、冒頭でお話した、侵害受容性疼痛だけでなく、神経障害性疼痛が強く出てくるような症例では、痛みのコントロールが不十分になるだけでなく、慢性痛となる帯状疱疹後神経痛のリスクが高い傾向になります。そのためペインクリニックでは神経ブロックを用いて治療を行っていきます。神経ブロックは急性期、慢性期の両期間に有用な治療法とされていますが、その効果は期間によって異なりますのでそれぞれ見ていきましょう。

急性期の神経ブロック

急性期における神経ブロックは、主に痛みの早期管理とウイルスの活動を抑えるために行われます。神経ブロックは局所麻酔薬を神経が伝達される経路に注入することで、痛みの伝達を遮断し痛みの緩和を図ります。

  • エビデンス:いくつかの研究では、急性期の帯状疱疹において神経ブロックが痛みを著しく減少させ、患者さんの生活の質を改善することが示されています。また、神経ブロックは帯状疱疹後神経痛への進行を防ぐ可能性があるとされています。
  • 推奨度:中から高となっています。早期介入が重要であるため、発疹出現後早期に検討すべき治療となります。

慢性期の神経ブロック

一方、慢性期で特に帯状疱疹後神経痛に対する神経ブロックは、長期にわたる痛みの管理と患者さんの生活の質の向上を目的としています。帯状疱疹後神経痛は神経の損傷によって引き起こされるため、神経ブロックは持続的な痛みの緩和に役立つことが多いです

  • エビデンス:慢性期における神経ブロックは、特に難治性の痛みに対して有効な選択肢とされていますが、すべての患者に対して効果があるわけではないため、個別に診察や神経ブロック後の評価が必要です。長期的な効果を出すために複数回や計画的な神経ブロックの治療が必要になることが多いです。
  • 推奨度:条件付き推奨とされています。症状の強さや持続時間、既往歴、日常生活への影響を考慮した上で治療を検討していく必要があります。

神経ブロックは、帯状疱疹における急性期および慢性期の痛みの管理に有効な選択肢の一つですが、その使用は患者の状態や痛みの性質、治療への反応によって異なるため、内服と併用しながら対応することが一般的になります。

当院での帯状疱疹への対応の考え方

これまで、帯状疱疹へ痛みに関して一般的な知識や治療方法をお伝えしていきました。では、これらの内容をふまえた上で当院での治療の流れをお伝えしていきたいと思います。

多くの患者さんは帯状疱疹の診断がついてから来院される事が多いです。すでに内服は開始しているが痛みのコントロールが難しく受診されます。発症から時間が経っていればいるほど治療に難渋する傾向にあるため、なるべく早期にペインクリニック外来を受診されると治療方針や予想される経過をお伝えするのにも医療者側と患者さん側とお互いに良いと思います。

ただ、普段かかりつけの皮膚科、内科の先生が患者さんの背景もわかったうえで帯状疱疹の治療を行うケースが一番多いと思いますので、痛みに関しての相談をペインクリニックに早期に行っていただけるよう今回のようなブログでの発信で患者さんに周知できるよう努めていっております。

少し話はそれましたが、『とにかく早期に』がポイントになりますのでそれをお伝えできればと思います。

治療は抗ウイルス薬がまだ内服されていないようなのであれば、内服を早期に開始していくのと、早期に出現する炎症による痛みに対しては消炎鎮痛であるNSAIDs、皮膚の症状に関しては外用薬、ウイルスによる炎症により損傷を受けた神経の修復に対してはビタミン剤を投与していきます。

また、診察時に神経への影響を調べていきます。感覚が鈍くなっていないか、痛みに対しての感覚が敏感になりすぎていないか、運動麻痺が行っていないか、などを診察して評価していきます。

特にラムゼイハント症候群と呼ばれるような顔面神経麻痺を伴うものや、目の周囲に発疹がでるような三叉神経の第1枝の帯状疱疹は眼科・耳鼻科の診察が必要となり対応方法が変わってきますので、注意して診察していきます。

診察時に神経への影響が強い所見がある場合や、すでに痛みの程度が強い場合は早期よりブロック注射の適応として対応していきます。これは早期に神経ブロックを介入することで痛みの程度の緩和を目的とするだけでなく、帯状疱疹後神経痛への移行を減らすことができる可能性があるためです。

帯状疱疹後神経痛は発症からおおよそ3か月経過しても痛みが持続する場合を言いますので、まずは初期治療の期間としては3か月を目安で患者さんにお伝えしております。その後は痛みの程度に合わせて神経ブロックを行う間隔をあけていく、内服薬を減量していくなど調整をしていくことが多いです。他の痛みの治療と同様に生活への影響を考慮しながら患者さんと治療方針を相談していきます。

まとめ

帯状疱疹について痛みの原因と一般的な治療方法と当院の考え方についてお話してきました。内容が多くなってしまったためまだ詳しくお伝えできていない肝心の帯状疱疹関連痛に用いられる神経ブロックの種類とその効果のエビデンスについては次回のブログでお伝えしていきます。

今回の内容は帯状疱疹にかかってしまった患者さん、また今後何か体に異変を感じたときにどのように対応していけばよいか、帯状疱疹の可能性があるのか、そのような時のお役立ちになればと考えてお伝えしてきました。

患者の皆さんが痛みに関して不安を感じずに受診できるよう、今後も痛みに関する情報を提供していきます。ご質問やご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。健康な毎日をサポートするお手伝いをしていきます。

参考文献

1)Wood MJ, et al. Efficacy of antiviral therapy in preventing postherpetic neuralgia. Lancet. 1994

2)Dworkin RH, et al. Pregabalin for the treatment of postherpetic neuralgia. NEJM. 2003

3)Watson CP, et al. Amitriptyline versus placebo in postherpetic neuralgia. J Pain. 1998)

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